設計手続きQ&A
Q1 ステンレス鋼を構造部材として利用したいが、設計・建築確認申請等どのような手続きが必要ですか。
平成12年6月に施行された建築基準法及び施行令で、ステンレス鋼は、鉄骨造に用いる鋼材として規定されました。従って、従来の炭素鋼の取扱いと同様に、設計後、確認申請を行うこととなります。高さが60m以下の建物であれば、(財)日本建築センターや(社)ステンレス構造建築協会による個別の評価(大臣認定)は不要です。
Q2 炭素鋼を主に使用している建物で、その一部にステンレス鋼(例えば柱のみ)を使用する場合など、炭素鋼とステンレス鋼の接合部の設計について留意すべきことは何でしょうか。
詳細は、当協会発行の「ステンレス建築構造物の施工基準/ステンレス建築構造物工事標準仕様書・同解説」第2版(2001年5月)に記載してありますが、接合部の設計に当って留意すべき点は下記のとおりです。

(1)高力ボルト接合の場合は、ステンレス鋼と炭素鋼の組み合わせとなる摩擦面が生じますが、それぞれの面に摩擦面処理を行うことにより、摩擦接合は可能です。それぞれの摩擦面の処理については、前述の施工基準を参照して下さい。また、ステンレス鋼部材側に使用する高力ボルトはステンレス鋼製の高力ボルトが望ましく、接合部全体としてステンレス鋼製の高力ボルトを使用することが施工ミスを避ける意味で望ましいと思われます。
  なお、ステンレス鋼製の高力ボルトについては、当協会認定の「高力ボルト製作認定工場」製品をご利用下さい。

(2)炭素鋼とステンレス鋼を溶接する場合は、異材接合用の溶接材料を使用することにより健全な溶接部を得ることができます。ただし、部材形状によっては、溶接歪及び溶接割れが懸念されますので、適切な溶接条件及び溶接材料を選定する必要があります。
当協会認定の「ステンレス建築構造物製作工場」は、これらについてのノウハウを蓄積しておりますので、ご利用下さい。

材料Q&A
Q3 耐火性に優れているステンレスを無被覆使用する場合、どのような検討が必要になりますか。
現行の建築基準法では、無被覆で使用可能な地域、用途、規模等には制限がありますが、無被覆で使用するための資料として「ステンレス鋼を構造部材に使用した建築物の耐火設計指針」があります。詳細は協会へお問い合わせ下さい。
Q4 構造材としてのステンレスは、普通鋼やアルミニウムと比較して、どのような利点が考えられますか。またコストはどの程度の差異がありますか。
普通鋼の短所は、大気中で腐食することです。このため塗装やめっき等の表面処理で耐久性を確保することになります。即ち、塗装やめっきが剥離した場合、定期的な補修が必須の条件になります。ところがステンレスは、大気中では全面腐食は生じず、素地のままで美観が保てます。これが普通鋼に対する最大の利点となります。また、アルミニウムは軽量ですが、強度面や耐火性の面で劣ります。参考までに薄板外装材のコストと耐久性との関係を概念図で示します。
Q5 主要構造部にステンレスを使用した場合、ライフサイクルコストの観点で検討を加えると、著しいコストメリットが出ると聞きましたが、具体的な計算方法を教えて下さい。
ライフサイクルコストの考え方は、建築物の期待する使用寿命をもとに、初期コスト(材料・加工・施工等の建設に関わる費用)、維持コスト(操業・維持に必要な費用)、廃棄コスト等、その建築物の総費用(金利やインフレ率等も含む)を積算し、現在価格で計算、比較検討するための手法ですが、下図にプール上屋のライフサイクルコストを比較検討した一例を紹介します。ステンレスは概ね25〜30年程度を境に、大きなメリットを生むことが推測されます。
Q6 ステンレスを普通鋼と接触して使用する場合、ステンレスが腐食することはないのでしょうか。
一般に、耐食性の異なる金属を接触して使用すると耐食性の良い金属(貴な金属)は防食され、耐食性の劣る金属(卑な金属)は腐食が促進します。これをガルパニック腐食といいます。
ステンレスと普通鋼を組み合わせて使用すると、普通鋼が腐食します。しかし、いずれステンレスにも悪影響を与えますので、普通鋼側を塗装等により絶縁処理をして使用することが望まれます。下図に異種金属溶出の例、異種金属接触腐食の防止例、また、金属の海水中の腐食電位例を示します。
Q7 ステンレスはメンテナンスフリーの鋼材と言われていますが、臨海地やプール環境で使用する場合、問題はないのでしょうか。
海から飛来する海塩粒子やプール水の滅菌に使用される次亜鉛素酸ナトリウム等から生成される遊離塩素は、ステンレス表面の不動態皮膜を破壊し、さびの原因となります。
臨海地で使用する場合、定期的にメンテナンスをすることが望まれます。また屋内プール環境下では水洗いが可能な部位には、鏡面仕上げのような平滑度の高い仕上げのものを使用するとさびの発生が軽減できます。ただし、結露の発生しやすい部位では、高耐食ステンレスや塗装ステンレスの使用を推奨します。
Q8 ステンレスとコンクリートやタイル等を接触して使用した場合、ステンレスの耐食性に悪い影響を与えますか。
ステンレスはコンクリートのようなアルカリ性のものには強いが、塩素イオンの多い環境下では局部腐食を生じる場合がありますので、コンクリートに混ぜる砂には海砂を使用しないで下さい。またタイルの清掃に塩酸系薬液を使用する場合、これが付着したままですと、さびの原因となりますので、タイル清掃の際には、薬液が残らないように十分に水で洗い流すよう留意して下さい。

加工Q&A
Q9 ステンレスは、切断・溶接・曲げ等の加工では、普通鋼とどのような違いがありますか。
また、その対策として、どのような点に注意しなければなりませんか。
ステンレスは、加工面から見ると、靭性が高い、熱膨張係数が大きい、熱伝導率が小さい、スプリングバックが大きい等の特徴があります。加工に当たっての注意点をまとめると下表の通りです。
項 目 普通鋼との相違点 加工上の留意点
切 断 @耐力が大きい 普通鋼よりパワーの大きな剪断機で切断する。
A焼付きを起こしやすい。 ステンレス専用の刃物や潤滑油を使用する。
溶 接 @熱膨張が大きく、熱伝導率が小さい。 溶接ひずみを生じやすいので、部材の位置決めや固定を慎重に行う。また溶接入熱量をできるだけ小さくする。
A普通鋼と同様に不活性雰囲気中での溶接が必要である。 風のある屋外での溶接は極力、避ける。屋外での溶接作業をせざるを得ない場合は、風除け等で不活性雰囲気の溶接条件を確保する。
曲 げ スプリングバックがおおきい。 予めスプリングバック代を見込んで曲げ加工を行う。
Q10 ステンレス構造の建物を現場施工する際、鋼構造建築物の現場施工と同じ道具や工具で作業を行ってもよいのですか。
ステンレス構造の場合、柱等は無被覆で使用するケースが多くなると考えられます。養生部を傷めないためにクレーン等の吊りベルトはナイロン製のスリングベルト等を使用して下さい。またステンレスとじかに接触する工具のアタッチメントは、クロームメッキ等で処理したものを使用して下さい。
Q11 ステンレスを現場で塗装するのは難しいのですか。もし、できるのであれば具体的に教えて下さい。
現場塗装は、ステンレス表面の汚れの除去や不動態皮膜の化成処理等、面倒な作業がありますので、基本的には避けて下さい。しかし、どうしても現場塗装が必要な場合もありますので、その手順の一例を下表に示します。
手   順 作業の内容
下地処理 2D、2B等表面の粗度の小さい場合にはグラインダー等により、表面粗さを調整する、また付着している汚れ、油、研磨かす等をウエスやシンナー等で除去する。
塗   装 @ステンレス用の下塗り塗装を施し、十分に乾燥させる。
Aステンレス用の上塗り塗装を施し、十分に乾燥させる。
注)塗装条件は各塗装メーカーの塗料ごとに異なりますので、詳細は塗装メーカーへ「常乾性のステンレス用塗料」と指定した上で、お問い合わせ下さい。

ボルトQ&A
Q12 ステンレス製の高力ボルト10T-SUS(ステンレス構造建築協会規格)は、大臣指定JISに合致していますか。
JIS B 1186(大臣指定JIS)は、性能規格であり、材質の規定がなく、F10Tと規定すると、従来から使用している炭素鋼製と混同され、品質管理上問題が生じる可能性がある。したがって、F10Tと同性能で、材質がステンレスである10T-SUS(ステンレス構造建築協会規格)としている。
この10T-SUSは、旧建築基準法38条認定時(平成6年)から使用実績があり、「ステンレス建築構造設計基準」にも合致しているものである。
Q13 ステンレスの中ボルトを使用したいのですが、どのようなものがありますか。
構造用に使用する中ボルトは、日本工業規格JIS B 1054-95「ステンレス鋼製耐食ねじ部品の機械的性質」に規定するA2-50が定められています。しかし、この中ボルトは、各種の環境下における耐食性については、保証をしていません。したがって一般的な大気環境下で使用する場合には、特に問題となりませんが、温水プール等の塩素イオンの多い環境下で使用する場合(*)には、留意する必要があります。
(*)出版案内の中の協会規格「SSBS 351 構造用ステンレス鋼六角ボルト及び六角ナット」を参照ください。

溶接Q&A
Q14 ステンレスは溶接が難しいと聞きますが、ステンレス建築構造物を建設する場合、推奨できる適当な溶接方法として、どのような方法がありますか。
現状では、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク半自動溶接および自動溶接が使われています。ただし、屋外や現場では風等により不活性雰囲気での溶接が阻害されますので、原則的には現場溶接は行わないようにして下さい。(技術資料、「溶接材料と超音波探傷検査」を参照して下さい。)
Q15 スタッド溶接はできますか。また、スタッドボルトは入手できますか。
スタッド溶接は可能ですし、スタッドボルトも入手可能です。詳細は協会へお問い合わせ下さい。